何かが焼け焦げる臭いがする。 耳をつんざく叫び声は誰のものだったろう。


[—―!]


手をのばされる。


 焼け焦げて、黒々とした小さな手が私の頬を掠めた。


 誰かが笑う。 今度は低い男の声。 燃え上がる炎の中で、男は私に向けてのばされた小さな手を叩き落とした。


「起きてください、お嬢様」


 優しい、穏やかな声に深く沈んでいた意識は急浮上した。 男の笑い声が掻き消えていく。


「……鎮彦?」


「朝ですよ、お嬢様」


 ぼやける視界の中に、見慣れた顔が映る。ぼんやりと眺めていると「まだ寝ぼけていらっしゃるんですか?」 と笑う声。


 夢で聴いた恐ろしいあの声とは似ても似つかないそれにほっと肩の力が抜けた。


「……悪い夢を見ていた気がするの」


「おや…怖い夢ですか?」


「たぶん。でも鎮彦が起こしてくれたから、もう怖くないわ。おはよう、鎮彦」


「……それならよかった。おはようございます、お嬢様」


 鎮彦はにこりと笑って頷くと閉めきられたカーテンに手をかけた。眩しいくらいの日差しが顔にかかる。


「いい天気ですよ、 お嬢様。お体の具合はどうですか?」

「……平気。 学校にも行けるわ」

「それはなによりです。旦那様も昨晩お帰りになられたので、久しぶりにご家族団らんでお食事ができますよ。今制服を用意させましょう」

「……」


お父様が帰ってきてる……。


消那はベッドから起き上がると乱れた髪を手櫛で整えた。